長期フォローアップ

長期フォローアップ

1. 長期フォローアップとは

「小児がん経験者が治療終了後に生じる様々な問題を支援するもの」であり、
全ての小児がん患者さんを生涯に渡りサポートします 。
小児がん経験者に生じうる問題とは、治療中もしくは治療終了後に生じる からだの問題(晩期合併症)、復学、進学、就労、金銭、恋愛等の心理社会的な問題など様々です。

2. 治療中もしくは治療終了後に生じるからだの問題(晩期合併症)とは

がんの治療(化学療法、放射線、手術、造血幹細胞移植など)により治療終了後時間が経ってから発生するからだの問題と、がん及び治療中に発症した合併症が引き起こすからだの問題です 。
治療終了後10年経過してから発症する脂質異常症や、20年経過してから発症する心臓機能の低下など多彩な問題が生じえます 。
小児がん経験者に必ず生じる問題ではありませんが、以下の点が大切です。

  • ①治療から時間が経つにつれ発生率が上がるものが多い
  • ②早期発見・治療が有効なものが多い
  • ③注意すべき症状がある
  • ④自身の受けた治療により晩期合併症の予測ができる

①治療から時間が経つにつれ発生率が上がるものが多い。

晩期合併症の中には治療から時間が経つにつれ発生率が上がるものがあります 。 (下図)

治療後5年では小児がん経験者の25%程度に晩期合併症が発生する一方、治療後30年では小児がん経験者の70%程度に何らかの晩期合併症が発症すると海外から報告されています。

また、治療が必要な慢性的なからだの問題は一般的な50歳で平均2.3個 生じていた一方、小児がん経験者では50歳で4.7個と健常人に比較し慢性的なからだの問題を多く抱えていることも海外から報告されています 。

これらのことから、小児がん経験者は慢性的なからだの問題を抱える可能性があり、現在症状がなくとも、定期的な健康チェック、健康管理への意識を高めることが大切です。

日本人の小児がん経験者でからだの問題がどの程度生じるかは十分に明らかになっておらず、TCCSGコホート研究で明らかにしたいと考えています。

②早期発見・早期治療が有効なものが多い。

晩期合併症には、心臓の機能(心機能)の低下や肝臓の機能(肝機能)の異常 など、無症状で進行するものがあります。
晩期合併症は治療・生活習慣により改善が見込まれるものが多く、早期発見・早期治療が重要です。

例)晩期合併症として心臓の機能低下が生じ得ます。

長期フォローアップが途絶え、心機能が徐々に低下していることに気づかれず、胸の痛みや息切れが生じています。

長期フォローアップにより心機能の低下が発見され、治療により心機能を改善・維持させることができています。

例)ステロイドの副作用により足の骨が折れやすくなっている、関節の痛みが生じることがあります。

骨が折れやすくなっていることや関節の痛みを早期診断することにより整形外科の先生と協力しながら治療にあたることができます。

③注意すべき症状がある。

晩期合併症には早期発見の手がかりとして注意すべき症状がいくつかあります。
頭痛、胸やお腹、関節などの痛み、めまい、嘔吐、疲れやすさ、息切れ、動機、血の付いた尿や便などの症状が新たに出現し、持続する場合は注意が必要です。 これらの症状を把握することが早期発見につながりますので、確認しましょう。

例)晩期合併症として二次がんが生じ得ます。
慢性的な頭痛や腹痛、早朝の嘔吐、血の付いた尿や便、息切れなどの症状は化学療法、造血幹細胞移植、放射線照射によって引き起こされる二次がんの症状であり、早期発見につながる可能性があります。
症状が改善しない場合は 医療機関を受診しましょう。

例)晩期合併症としてホルモンの異常が生じ得ます。
「疲れやすい」症状が造血幹細胞移植や頭蓋照射によって引き起こされる晩期合併症のサインである可能性があります。
症状が改善しない場合は医療機関を受診しましょう。

④自身の受けた治療により晩期合併症の予測ができる。

近年、治療に用いた薬剤より晩期合併症の起こりやすさが明らかになりました。
あなたの医療記録(治療サマリー)をもとに、注意すべき晩期合併症について確認しましょう。
注意すべき晩期合併症、さらにはその晩期合併症のサインと なる症状を理解することで晩期合併症の早期発見・治療につながります。

治療に用いた薬剤商品名*注意すべき晩期合併症**
アントラサイクリンダウノルビシン、ドキソルビシン等心臓の機能低下
エトポシドラステット、ペプシド二次がん
アルキル化剤エンドキサン、イホマイド性腺機能の低下
ステロイドプレドニン、デカドロン大腿骨頭壊死、白内障等

*商品名は複数存在するので同一成分でも異なる商品名のことがあります
**晩期合併症の起こりやすさは投与量により異なるものがあります

例)治療サマリーからアントラサイクリンが投与されていることがわかりました。
アントラサイクリンは心機能の低下を引き起こす可能性があるため、
心臓機能の低下により生じ得る息切れ、動機などの症状に注意しましょう。

3. あなたの治療サマリーを確認してみましょう

治療終了後長い年月が経過した場合、治療サマリーが現在手元にない可能性も考えられます。
特にあなたが幼少期に小児がんを経験した場合は、ご家族が お持ちの場合があります。
まずはご家族に相談してみましょう。

治療サマリーを確認

ご家族が治療サマリーをお持ちの場合は、これを機にあなたが受けた治療について、ご家族の わかる範囲で説明してもらいましょう。

ご家族が治療サマリーを受け取っていない場合、 長い年月が経過しているため紛失している場合もあります。
そのような場合、以下の方法で入手できることがあります。

治療サマリーを受け取っていない場合

1) 現在小児がんに対して定期受診している場合

小児がんに対して定期受診している場合

定期受診先の先生に相談してみましょう。 転居などの関係で現在定期受診を行っている病院 が治療を受けた病院でない場合も、サマリーを入手 できる可能性があります 。

2) 現在小児がんに対して定期受診していない場合

まずは、ご自身が治療を受けた病院へ問い合わせ、 それでも解決しない場合にはお近くの小児がん拠点病院にご相談ください。
治療を受けた年齢、病名から受けた治療を推測し、治療サマリーを代用することができる可能性があります 。

小児がんに対して定期受診していない場合

4. 晩期合併症発症リスクが高い疾患/治療

治療サマリーや病歴の詳細がわからない場合でも、以下にあてはまる疾患や治療を受けた場合、晩期合併症を発症するリスクが比較的高いことが過去の報告からわかっています。
そのため、これらの疾患もしくは治療を受けたことがある小児がん経験者は、 自身の健康管理に関する意識を高くもつ方が良いでしょう。

これらの疾患かどうかわからない場合、これらの治療を受けたかどうか わからない場合も、あなたのからだを守るために、健康管理に関する意識は高くもつ方が良いでしょう。

疾患・脳腫瘍
・再発
・遺伝性腫瘍
治療・造血細胞移植
・放射線治療

がんの治療が終わった後、どんなことに気を付けて生活すればいいのだろう?
という疑問に答えるため、小児がん経験者に必要な健康管理について説明します。

5. 小児がん経験者に必要な健康管理

一般的に良いといわれている健康的な生活(日常生活における健康管理)は、小児がん経験者であるあなたの健康もよりよくしてくれます。
特に、小児がん 経験者の方は同世代の方よりも生活習慣病などを発症しやすい傾向があるので、 健康的な生活がより望まれます。
同様に、小児がん経験者は自分で健康管理ができる能力「ヘルスリテラシー」 を身につけることも大切です。

6. 日常生活における健康管理(セルフケア)

①規則正しい生活をする

十分な睡眠、朝食をとることを意識した生活習慣を身につけましょう。
睡眠不足はストレスや脳梗塞、動脈硬化などの心血管疾患の発生率を増加させ、朝食をとらない場合、昼食後に血糖値が上昇しやすくなり、
肥満、糖尿病の発生率を増加させる恐れがあります。

②バランスのとれた食事をする

脂肪分の多い食事は肥満、高脂血症、脂肪肝を、塩分の多い食事は高血圧を引き起こします。
肥満、高脂血症、高血圧は心血管疾患の発生率を増加させます。
また、脂肪分の多い食事や加工食品のとりすぎはがんの発生率を増加させます 。
食物繊維の多い食品、アブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリーなど)、 ビタミンAやビタミンCが含まれた食品はがんの発生率を低下させることが報告されています。

③適度な運動をする

自分の体に合わせて、過度な負荷がかからない日常生活 の中で行える運動を心がけましょう。
例えば、毎日必ず行うもの、通勤の行き帰り、買い物に出かけることといった日常生活の中でできるだけ歩くようにする、自転車を使うといった心がけ一つで、 普段の行動も運動に結びつきます。
早歩き、ジョギングなどの有酸素運動、縄跳びやダンス など軽度の荷重がかかる、比較的体への負荷が少ない運動に比べ、ジムでの過度なトレーニングなど過度に荷重がかかる運動は、心臓の異常や骨がもろくなっている場合は控えた方が良いでしょう。

④適量の飲酒

過度なアルコール摂取は肝障害、二次がん、慢性疲労の発生率を増加させます。
医師から禁酒を指示されていない限り、 禁酒までする必要はありません。
家族や友人、同僚と飲酒をする機会が あれば適量の飲酒に留め、飲酒をした際は休肝日を設定することを心がけましょう。

⑤禁煙

たばこに含まれる有害物質は呼吸機能の低下、 肺がん、心血管疾患の発生率を増加させます。
禁煙はもちろんのこと、受動喫煙も避けるよう心がけましょう。

⑥ストレス解消方法をもつ

ストレスは多様な身体、精神的症状を引き起こします 。
ストレスを溜め込まないよう自分なりのストレス解消方法をもつと良いでしょう。

⑦健康診断、がん検診を受ける

定期的な健康診断を必ず受けましょう。
現在も通院している方は主治医の先生と健康診断の頻度、項目について相談しましょう。
現在通院していない方は、職場での一般健康診断で良いか、人間ドックを 受ける方が望ましいのか自身の治療記録をもとに判断しましょう。 自身で判断が難しい場合は、自身の治療施設や長期フォローアップ外来などに相談しましょう。

4. 晩期合併症発症リスクが高い疾患/治療に当てはまる方は一般健康診断のみではなく、定期的に人間ドックを受ける方が望ましいでしょう。

7. 自分で健康管理ができる能力「ヘルスリテラシー」を身につける

あなたの健康問題を全て医療者に委ねるのではなく、徐々に自身で健康管理ができるよう、「ヘルスリテラシー」を身につけましょう。
小児がん経験者に必要とされるヘルスリテラシーの項目を次に挙げます。

①実施可能な日常生活の健康管理(セルフケア)を自分で行うことができる

6.日常生活における健康管理(セルフケア)の必要性を理解し、実施可能 なものから自分で行えるようにしましょう。

②自身が主体的に実施・決定する

どのようなときに病院を受診するか、どの病院を受診するか、自身で決定できるようにしましょう。
自身で情報を収集し、医療者に質問することも大切です。

③自身の医療情報を管理する

自身で内服薬の管理、検査結果の保管を行い、外来予約の時期を把握し 受診できるようにしましょう。
必要な診断書や意見書を把握し、適切な時期に発行依頼をできるようにしておきましょう。
自身の受けている助成金や加入している保険の説明ができるように なりましょう。

④自身の医療情報を他の医療者に伝えることができる

旅先や転居の際に初めての医療機関を受診する際、医療情報(病名や現在の 治療、内服薬、晩期合併症)を自身で伝えられるようにしましょう。 治療のまとめを撮影し携帯電話に保管しておくことも良いでしょう。
転居の際には予め受診先を決定し、主治医の先生に紹介状を作成してもらうと良いでしょう。

相談
相談

8. 心理社会的な問題とは

小児がんの治療や長期入院の影響から、からだの問題のみならず、復学、進学、就労、恋愛、金銭など、ライフステージに応じて様々な問題 (悩み)を抱える可能性があります。
長期フォローアップでは心理社会的な問題のサポートも行います 。
心理社会的な問題は問題(悩み)が出現した際に1人で抱え込まず相談することが大切です。

心理社会的な問題は相談しにくいと感じることも多く、以下の点が大切です。

①主治医でも看護師でもその他医療スタッフでも、あなたが相談したいと 思った人に声をかけて良いこと

相談相手は主治医だけである必要はありません。
あなたが相談したい、 相談しやすい人と思った人に声をかけてください。

②話しやすい環境を作るために普段から日常生活の会話をすること

継続的に通院する中で、普段からからだの問題のみならず、日常生活に 関する話題もスタッフと話すなど、日頃から話しやすい環境を作っておくことも、問題(悩み)が出現した際に役立つでしょう。

③同じような経験をした仲間と体験を共有することができること

相談先は医療スタッフに限りません。
小児がん経験者の交流の場である患者会では、同じような経験をした経験者と体験を共有し、ともに解決策を考えることができます。
どうしても医療スタッフに相談することができない場合は、 患者会などの団体に連絡を取ることも相談の手段です。

相談

次のような問題が心理社会的な問題(悩み)の一例としてあげられます。

◆退院後、治療の影響により脱毛や中心性肥満など 外見上の変化に悩む経験者もいます 。
脱毛に対してウィッグを装着している場合は、いつウィッグを外すか悩むこともあります。

退院後
学校の授業についていくことに苦労

◆長期入院の影響により学校の授業についていくことに苦労することもあります 。
外来通院のため特定の授業に参加できないなどの問題が生じることもあります 。

◆恋愛や就職では、自身が病気をしていたことを
伝えるか悩むこともあります。

◆小児慢性特定疾患が切れた20歳以降では医療費の負担が大きく、金銭面の問題が生じることがあります 。

◆外来通院したいと思っても、時間の余裕がない、金銭面の負担が多い、病院が遠い、病院が通院終了を告げたなどの問題から通院ができないことも起こり得ます。

通院ができない

このような心理社会的な問題に正解があるわけではありませんが、1人で悩まず、 医療者にも御相談して頂ければと思います。